TPP参加 日本社会の存立にかかわる重大問題

くらしと環境守る国民的運動を

 

                        小 池 信太郎       
         (公害・地球懇代表幹事)

 

 国民的な世論と運動によって、自公政権を後退させましたが、これに示された「政治の流れを変えよう」との広範な国民のねがいに背を向け、新政権は、迷走・逆走・暴走へとつきすすんでいます。

 菅内閣は、「第三の開国」と称して、環太平洋連携協定(TPP)への参加を基本政策として掲げてました。民主党は、昨年七月の参院選に引き続き今年三月の一斉地方選で惨敗を喫しましたが、その要因として、TPPへの参加問題に対する世論の大きな批判があったと思われます。

 菅内閣は、世論の批判が高まる中で、一時、TPPへの参加問題を「見合わせる」かのような報道が流されました。しかし、このたびの東日本大震災を機に再浮上させる動きが濃厚です。

 民主党の「復興ビジョンチーム」(座長・直嶋正行元経済産業相)が4月28日まとめた復興ビジョン素案では、「復興」を名目に、法人税減税や消費税増税、環太平洋連携協定(TPP)、「道州制」などの推進を鮮明にしています。

 また、政府の復興構想会議(議長・五百旗頭真防衛大校長)は30日、第3回合同会議を開き、日本経団連、経済同友会、日本商工会議所から意見聴取を行いました。この場でも、財界3団体からは、こぞって「消費税増税とTPPへの参加」が迫られましたとのことです。

 TPPへの参加によって、コメ生産の90%が破壊され日本農業に重大な悪影響をもたらすことなど試算されています。これは、日本社会の存立にかかわる重大問題を孕むものであり、こうした流れを阻止する大きな世論と運動づくりが必要です。

 

日本民族にとってコメづくりは 

 我が国は“瑞穂の国”と伝えられてきました。“みずみずしい稲穂の国”という美称でもあります。日本における稲作の歴史は、縄文後期・弥生前期までさかのぼると言われます。そして、米づくりは、日本民族にとって、生きるための糧、すなわち“命綱”であったし、今後この立場は変わらないでしょう。さらに、水田の果たしているものは、食糧生産としての役割に止まらず自然環境や文化などその多面的機能は計り知れないものがあり、日本民族をつくりあげてきたルーツとも言うべきものです。

目先の利益、しかもごく限られ一部の利益のために、国民的な、さらには地球規模のかけがえのない財産を失ってはならないと考えます。

 私たちは、「ダムは百年、田んぼは万年。森は緑のダム」を合い言葉に運動をすすめています。水田や森林は、米や木材の供給のほか、国土の保全、水資源の涵養、土砂流出防止、保健休養、野生鳥獣保護、酸素供給、大気浄化などの多面的機能を有しています。いま私たちに求められているのは、「豊かな水田、きれいな森を豊かなまま子どもたちに手渡す」そのための努力が払われることであり、今を生きる私たちの責務であると考えます。

 

農林漁業の発展が日本経済の持続的成長に

 前原外相(当時)は、「日本のGDPのうち、農業など第一次産業は1・5%。1・5%を守るために98・5%が犠牲になっている」と発言しました。これは、TPPの参加によって、農林漁業は被害を受けるが、国民全体は利益になるかのような暴論です。軽視できないのは、これにマスコミ、とくに中央紙が同調する機運がひろがっていることです。

 農業生産の後退は、農家だけに止まりません。それは、食品工業、製造業、建設、商業、運輸、サービス業など多方面に影響し、仮に、農業による生産額が10%減少すると、全産業に1・7倍に、すなわち170%の減少額となってはねかえるとの政府試算があります。逆に、農林漁業など第一次産業であげた生産活動が、地域の各産業活動に生かされ、雇用と所得として地域全体の活性化につながり、さらに、国民全体の利益となって日本経済の持続的成長の支えとなります。

 

避けられない自然からの影響、「不作は天災、不足は人災(政災)

 第一次産業は、自然を相手に成り立っており、自然からの影響は避けられません。

 異常気象により、この約30年の間に日本国民は、1984年と1993年から94年にかけてのと2度、深刻なコメ不足により生活を脅かされてきました。

 1984年のときは、80年から83年までの4年連続で冷害が続き、在庫は全国でわずか1千トンと底をつき、韓国からの緊急輸入でとりつくろったわけです。ところが、この輸入韓国米の中に、残留農薬臭素による汚染米が、しかも、学校給食に販売されていたなど、当時社会問題にもなりました。

 異常気象の原因の一つとして、1980年には、アメリカ・ワシントン州のセントヘレン火山が、82年には、メキシコ・ユカタン半島のエルチチョン火山の爆発が、93年〜94年の際は、フィリピンのピナツボ火山の大爆発がありました。

 食糧不足のとき、国内ばかりか他の貧しい地域に倍加され、国際的な問題ともなりました。93年〜94年のとき、日本がコメを買いあさった結果、国際価格は、2・6倍にはね上がり、中近東、アジア、アフリカ諸国にしわよせされたと、報道されました。

 異常気象は、いつくるかわからないのです。だからこそ、その時のために備蓄が必要なのです。当時私たちは、「不作は天災(異常気象)、不足は人災(備蓄を怠った政治の責任)」と主張し、このようなことをくりかえさせないために、農林漁業、環境を守る運動をすすめてきたのです。

 

「国際化」のもたらす、健康への影響

 コメをはじめとする農林水産物の全面自由化につながるガット(関税貿易一般協定)ウルグアイラウンド(多角的貿易交渉)による合意文書の批准は、1994年12月の国会で強行されてしまいました。

 「ガツト協定」では、「農業に関する協定」とともに、もう一つの重要な協定、「衛生植物検疫措置の適用に関する協定」(SPS協定)が結ばれました。この協定は、これまで各国で作られていた食品の安全性などについての基準を、貿易の障害・妨げとならないよう“調和”させる、すなわち、緩い基準に引き下げさせるというもの。しかも、その国際基準を決める「合同規格委員会」(通称「コーデックス委員会」)の運営は、各国政府関係者だけでなく、ネッスル、コカコーラなどの巨大食品企業や、デュポン、モンサントスなど、世界的な農業化学薬品会社が参加し、この基準づくりに、絶大な影響力を持っています。

 いま、輸入食料品の氾濫によって、安全性・健康についての心配が広がっています。「国際化」が一面において避けられないもとで、これが広がれば広がるほど、「貿易の障害」などとして、基準を引き下げてしまうというような、逆立ちした議論ではなく、それによって生じる現実的な不安を取り

除くための具体的な対策の強化こそ必要なのではないでしょうか。

 輸入食料品の安全性への不安は、TPPへの参加によって加速されることとなります。

 さる2月28日〜3月4日、「日米経済調和の対話」事務レベル会合が東京で開かれました。そこでは、農業関連課題について、残留農薬や食品添加物の基準を緩めるよう、米側から迫られたと報道されています。

 

「国際化」のもたらす、生態系への影響

 私たちの健康への不安はもちろんですが、生態系への影響など、さらに今後に計り知れない問題を残すこととなります。

 近年、生鮮食料品輸送を目的とする、海上コンテナ輸送が増大しています。これら農産物は、産地からの海陸一貫輸送によって、ドアー・ツウ・ドアー方式で日本に到着します。病害虫もまた、フレッシュな形で付いてきます。外国から侵入してくる病害虫は、在来種とは違い、大きな危険をはらんでいます。その国の気候・風土が侵入した病害虫の生息に適していたり、その土地に有力な天敵がいなかったりした場合、大きな被害を及ぼすことになり、事実、こうした例は数多く存在しています。

 

TPP参加は、あらゆる分野に悪影響

 菅内閣がすすめようとしているTPPへの参加による影響は、農林水産物だけでなく、あらゆる分野に市場開放が求められます。

 物の貿易では、地場産業や中小企業が主に担っている繊維や皮革・履物などが完全自由化を求められます。また、公共事業の入札、政府調達、労働市場の開放なども含まれます。

 菅内閣の「開国」は、「日米同盟基軸」と一体のものです。アメリカはこれまで、郵便貯金、医療保険の民営化・市場開放などを迫っています。国や自治体の公共事業の発注を外国資本への開放が迫られることとなります。

 日本医師会は、TPPの参加によって、市場原理主義が持ち込まれ、最終的には、国民皆保険制度の崩壊にもつながりかねない、とする見解を発表しています。

 TPP参加問題は、農業・林業・環境・雇用・医療など、私たちのくらし全般にかかわる重大問題であり、これを阻止する壮大な国民的運動とし発展するよう、私たちの役割の発揮が必要です。