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  リニア市民ネット「リニア新幹線は疑問がいっぱい」 
   
20141226
 

時論公論 「リニア中央新幹線着工 期待と課題」

NHK中村 幸司 解説委員

最高時速500キロで、東京の品川と名古屋の間を40分で結ぶリニア中央新幹線が、2014年12月17日に着工しました。13年後の2027年の開業を目指しています。
世界に例のない技術を導入したリニア中央新幹線への期待と、開業に向け解決しなければならない課題について考えます。
リニア中央新幹線は、品川から、南アルプスを貫いて、名古屋まで建設されます。
工事費は5兆5235億円で、JR東海が自己資金でまかないます。

リニア新幹線が名古屋まで開業すると、旅はどうなるのでしょうか。
品川のリニア中央新幹線のホームは、東海道新幹線の品川駅の真下、地下40メートルに建設されます。車両には強力な超電導磁石があるため、列車に乗り込む時は、磁石の影響を抑える
「磁気シールド」で囲まれた特殊なゲートを通ります。客室も磁気シールドで囲まれています。
品川駅を発車してから2分ほどで、時速500キロに達します。全席が指定。1編成で、およそ1000人の乗客を運ぶことができます。ほとんどがトンネルの中を通るため、富士山をみられるのは、
ほんの一瞬です。40分で名古屋駅の地下ホームに到着します。
運賃は、東海道新幹線の指定席料金に700円上乗せした額を想定しているということです。

品川・名古屋間40分というのは、いまの「のぞみ」に比べて、およそ50分の短縮になります。

開業によるさまざまな効果も期待されています。民間のシンクタンクの試算よりますと、移動時間の短縮などに伴う経済効果は、年間およそ3700億円にのぼるとされています。
東海道新幹線も、様変わりします。「のぞみ」の運転本数が減り、「ひかり」や各駅停車の「こだま」中心のダイヤに変更されます。通過待ちが少なくなるため、静岡など途中駅までの所要時間が短縮される見通しです。

リニア新幹線の研究は、いまから52年前、東海道新幹線開業前の昭和37年に始まりました。
宮崎の実験線では、超電導状態を安定して保つ磁石の研究や人を乗せる車両の開発など実用化に向けた実験が続けられました。
宮崎で実験している当時は、夢のまた夢だったリニア新幹線の実現に、期待の声が聞かれますが、巨大プロジェクトだけに指摘されている課題も少なくありません。
「環境への影響」、「工事費」の問題、「安全性の向上」などです。

まず、環境問題です。
リニア新幹線は、全体の86%がトンネルです。トンネル部分は、沿線への騒音は抑えられますが、一方で環境への影響が懸念される点があります。
特に山岳地帯では、さまざまな役目のトンネルを掘ることになります。南アルプス周辺の自然が残る静岡県を見てみます。

「本坑」とある赤い線が、リニア新幹線が走るトンネルです。実際に掘られるトンネルはこれだけではありません。
4キロから8キロごとに設けられる非常口に通じるトンネルが2本。さらに、工事で出た土砂を運ぶための「工事用トンネル」。
地盤の調査などのための「先進坑」というトンネルもあります。先進坑を掘る場所は決まっていませんが、本坑に沿ったところを掘ります。

こうしたトンネルの掘削で発生する土砂の量は、品川・名古屋間全体で、5680万立方メートル、
東京ドームおよそ45杯分です。このうち、具体的に処分先が決まっているのは、15%にとどまっています。

他にも、道路建設や宅地の開発などに使いたいという候補は上がっていますが、使い道がない土砂については、山間部に置き場を作って土に植林することも検討されています。
ただ、植林しても周辺の山と同じような深い緑になるまでには、数十年の年月がかかります。
影響を抑えるには時間がかかると、覚悟しなければなりません。
さらに、地下の水の流れが変わることも懸念されています。

例えば、近くを流れる大井川については、水の流れる量が1秒あたり12トンだったのが、10トン弱にまで減ると推測されるということです。
これは、地下の水がトンネルの中に浸み出すためと考えられています。
JR東海では、トンネルの中に入ってきた水を川に流すといった対策を検討しています。しかし、地下の水が少なくなって、湧水や小さな支流の水が減るといったことが起きることも想定されます。
そうなると、植物が生息できなくなるかもしれません。
植物に影響が出た場合には、別の場所に植物を移植するといった対応が検討されていますが、
移植したのでは、植物の生息場所が減ってしまうことの解決にはなりません。
一帯の水の動きを極力変えない工夫を、さらに進めることが求められると思います。
JR東海では、生態や環境に影響が出ていないか調査を行って、専門家などと対策を検討しながら工事を進めると話しています。
しかし、いったん壊れた自然はもとに戻せないという立場に立って、対策が十分なのか継続的に検証をすることが必要です。
課題のもう一つは、最近、高騰している工事費です。

計画では、品川−名古屋間の工事費は、5兆5235億円。2045年に大阪まで延伸した際の品川−大阪間の工事費は、合計9兆300億円とされています。
JR東海は、今後の人口減少を考慮しても、これだけの投資効果はあるとしています。
しかし、工事費が想定を超えて膨れ上がるなどして、開業時期が大きく遅れることにならないのか、工事期間が長いだけに不透明な面はあると思います。
そして、安全性の向上について。
山梨県にある実験線では、すでに110万キロを超える走行試験をするなど、安全性の検討を重ねています。しかし、安全を確保するためには、さまざまなトラブルに備えておく必要があります。
例えば、トンネル内で異常が起きたときの避難について、子どもやお年寄りなども含めた1000人もの乗客を、狭い通路で、何人の乗務員で、どのように誘導するのか。今後、検証しなければならないことは少なくありません。
時速500キロという高速で走行するため、列車や軌道のわずかなトラブルや異常も見逃すことはできません。また、従来のレールを走る鉄道では経験しなかったことを想定するという難しさもあります。点検や運行の管理など、より高い安全性を確保する態勢やシステムをつくりあげていくことが求められます。
リニア中央新幹線について、JR東海は「日本の大動脈を東海道新幹線とあわせて、二重にしておくために必要だ」と説明しています。

大阪まで延伸されれば、品川から大阪まで67分で結ばれます。東京、名古屋、大阪の3大都市は、通勤圏に入る時代が来るかもしれません。東海道新幹線が、東京・大阪間の日帰り出張を可能にし、高度経済成長期を支えたように、リニア中央新幹線はビジネスや生活を大きく変える可能性を持っています。
一方で、便利になることで東京への一極集中が加速してしまうのではないかという指摘もあります。
リニア中央新幹線実現には、環境など様々な課題を克服しなければなりませんが、同時にこれをどのように有効に利用していくのか、リニア新幹線の着工を機会に、私たちも考えていく必要があると思います。