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2011年9月12日
環境影響評価法の改正を受けての「基本的事項」見直しにあたっての意見(その二)
公害・地球環境問題懇談会
代表幹事 小 池 信太郎
事業段階環境影響評価を代替案・事後評価の充実で抜本強化する制度・基本的事項を
1.はじめに
福島第一原発事故は、原子力法制・安全規制の甘さが多くの国民・企業に前代未聞の被害をもたらした。事故は環境制度にも多くの教訓を残した。根拠のない「想定外」を結果的に容認・放置するような制度は決してあってはならない。ところが、環境影響評価制度は、そもそも環境負荷を最小化し、少なくとも環境基準内におさめることを義務とせず、また代替案を義務化せず、事後調査も義務化せず、事後に「想定外」の環境負荷が発生してもそれを防ぐ追加措置も決めない。このため、福島第一原発の15m津波と同じように、科学者や住民が、事業者の「想定内」の公害発生を大きく超える具体的可能性、例えば自動車交通需要の過小評価や大気汚染の過小評価を意見で出しても、「想定外」と押し切って工事に入ってしまう。さらに事後調査を義務化しないので、制度上「想定外」の環境影響の事実を把握できない。また、「想定外」の環境影響の事実を把握したとしても、追加措置を発動して「想定外」の環境影響を取り除くことも義務化していない。このように、事業者が「想定」した小さな環境影響を超える「想定外」の環境影響の発生を止められない、また追加措置を求めることも保証しない、不十分な制度である。
環境影響評価制度について、これから基本的事項などが定められる。「想定外」を残さないため、「想定」をできるだけ広くとり、代替案を徹底的に広げ、事後評価と照らして議論することなどが求められる。
私たちは、公害被害の未然防止、公共事業による乱開発・自然破壊防止のため、法制化前のいわゆる「閣議アセス」の時代から、環境影響評価制度制定について訴えてきた。また、制定後には、数々の問題点について、道路アセスを中心に問題を指摘し、意見表明・提案を行ってきた。
環境影響評価は、事業者だけでなく、科学者・住民など多くの者が知恵を出し合い、環境負荷を最低限にとどめるものを選び、意思決定する手段である。事業者が「想定外」を広くとって狭い範囲の「想定」だけでマニュアルチェックするものではなく、意思決定を効果的に行うものになるよう、事業段階アセスメントの実効性を抜本的に強化する観点で意見を述べる。
2.現行の基本的事項について
2.1
負荷最小化と代替案
(1)負荷最小化は基本
環境負荷最小化は、環境影響評価における各種選択の基本のはずである。「想定外」を許さずに今できる最良の選択をする基礎として、このことは重要である。
ところが、「最小化」原則が入っていない。もっといい技術かあるか、もっといい立地があるがなどを問うことなく、環境基準以下ならかまわないと容認してしまう制度になっている。さらに、地域で環境基準をそもそもオーバーしている場合には、この事業の影響はオーバーさせている他の汚染源に占める割合が軽微だとして、工事を認める制度・運用になっている。
また、後述のように代替案の検討が義務化されず、事業者の提案よりもっとよい技術、立地が検討から外れることも多い。
環境負荷を最小化し、現行より改善を目指し、最低でも今より悪化させないことを、基本的事項に定め、細目でその方針を具体化することが必要である。
(2)「想定外」を残さないために代替案は必須
・代替案義務がなければ「想定外の環境負荷」が残る
特定の環境負荷だけ、特定の措置だけ評価を行い、他は評価もしないし、後述のように事後評価もしない。これでは「想定外」の環境負荷が生じない方が不思議である。
環境影響評価で、最良の技術・方法、最良の立地を、幅広い選択肢を出し合って十分検討し、負荷自体を最小化し、地域への影響を小さくして行く必要があるのに、代替案が義務化されず、事業者が任意に代替案を出すとしても、評価の過程でそれらを知恵を出し合って議論するしくみにない。
事業者の狭い知見では、影響がどこまでどのように及ぶかの検討が不十分な場合がある。また、手続きを簡略化したいために評価範囲を狭くしたがる傾向がある。現行の制度では、他にもっといい代替手段があっても科学者や住民が提案して議論するしくみになく、根拠もなく「想定外」とされ、結果として環境負荷が大きな選択肢が選ばれてしまう。
代替案を義務化し、事業を行わない場合を必ず選択肢に含め、また代替案の選択肢が不十分なら科学者や住民などが追加案の意見を出し、「想定外の環境負荷」を出さず、現実的な可能性がすべて比較検討され、評価するしくみにすべきである。
・都市計画決定の枠を超えた代替案
また、都市計画決定など他の事業計画があると、その枠だけにとらわれて意味のある代替案検討ができない。たとえ事業直前であっても、環境負荷などが最小になるよう、事業の種類や立地、ルートなどを含めた代替案検討をすべきである。
(例)都市計画決定がなされていると、その枠だけで評価をしてもルートの代替案の検討がなされない。
2.2
事後評価
(1)事後評価は必須
事後評価のない制度は、厳しい表現をすれば、福島第一原発の津波が事前予測約5mを超えたかどうかも調査もせず、追加対策も求めず放置する余地を残した制度と言える。この事故を教訓に、抜本的に改める必要がある。
環境影響評価を実施し、確実に環境影響を最小化していくには、事後評価を行い、事前の環境影響より大きな負荷が出ていれば追加措置をして負荷を最低限に抑えていく、それを制度で担保することが必須である
環境影響評価では、事前評価の時点で可能な最良の予測をし、外れた際の強力な追加措置も事前に用意し、事後に評価と追加対策を実施し、環境負荷を最小に、予測の範囲に抑えていくことが必要だ。
ところが、事後調査、評価や評価後の追加対策が制度で義務化されていない。このことが、評価自体を精度、信頼性の低いものにしている。
工事の影響がない、あるいは小さいと評価された自然環境影響が、工事が始まるとたちまち現実に発生することもあるが、現状では工事を止めて原因を調査するしくみにないため、そのまま工事を進め、さらに事態を悪化させることもある。
環境負荷を小さく予測して環境影響評価を通し、事後についての調査の義務もなく責任も不在であることが、根拠のない予測が入り込み、工事開始後あるいは供用後は「想定外」と開き直る大きな理由になっている。
工事で「想定外」があればただちに工事を止めて調査をすることを義務化することが必要だ。
供用後は事後評価実施を義務化し、それだけでなく、ただ「想定外でしたから対処できません」などと放置せず、想定内に戻す追加措置が必要である。
(工事段階の想定外の例)首都圏中央連絡自動車道路の建設工事で、国史跡八王子城跡内の滝について「想定」では影響がないはずであったが、現実には工事後に水が流れない、涸れた日が長く続いている。
(供用後の想定外の例)自治体条例の事後調査で、事前の予測と事後の実績が大きく食い違う例がある。例えば東京都の道路アセスでは、臨海部の道路の交通量が事前予測の2倍近くになった事例がある(NGOの実地調査では4倍)。これはたまたま予想と食い違ったというのではなく、説明会で住民から、交通量は過小評価である、予想より負荷が多かったらどうするのか、という質問を多数受けたにもかかわらず、事業者は(福島第一原発の津波の可能性対応と同じように)評価における交通量を一切修正せず、「事後調査で対応」するとして放置してきた。
(2)事後評価項目について
環境影響評価で予測した事項について、全て調査し、事前の予測の範囲におさまっているかを報告するようにすべきである。環境負荷例えば大気汚染物質の濃度などだけでなく、それに大きな影響を及ぼす活動量、例えば自動車交通量なども報告する制度とすべきである。
また、調査・評価について、事業者等が実施するだけでなく、自治体の観測、専門家や住民の観測・調査なども取り入れるべきである。また、専門家や住民の観測・調査などをとりいれるためのしくみを基本的事項に規定すべきである。
調査の結果、「想定外」つまり事前の予測を超える負荷あるいは活動量の場合には、追加対策を実施し、負荷を事前予測のレベル以下に下げることとすべきである。これについては次項に述べる。
(3)事後の追加措置について
事後評価は現在義務化を行い、事前の環境影響より大きな負荷が出ていれば追加措置をして負荷を最低限に抑えていく、それを制度で担保することが必要である。
ところが、現実には小さく予測して環境影響評価を通し、「想定外」の環境負荷が生じ、地域の環境を悪化させており、事後についての調査の義務もなく責任も不在であることが、根拠のない予測が入り込み、あとは「想定外」と開き直る大きな理由になっている。
事後評価が「想定外(だから公害も仕方がない)」を許さないために必須であることは既に述べた。これに加え、追加措置も、「想定外だから仕方がない」ではなく「想定外の負荷が起こってしまったので何としても想定内に抑える」ことを制度的に進めるために必要である。
具体的には、事前評価の時点で可能な最良の予測をするだけでなく、外れた際の強力な追加措置を事前に用意し、事後に評価を実施し、仮に予測を超えていればただちに追加措置を実施し、環境負荷を最小かつ予測の範囲に抑えていくという手続きを定めておくことが必要だ。
(4)事後評価の期間
事後評価については、主たる環境項目(例えば道路であれば大気汚染物質の大気中濃度や騒音など)については最も負荷の大きな所で継続的に監視することが求められる。
また、直後、1年以内の間で最も環境負荷の大きな時期、以後例えば5年間は毎年、その後は隔年などに、環境負荷の大きな時期に調査し、評価をすべきである。
また、温室効果ガス排出量や廃棄物排出量など、事業にあたりデータが出るものについては継続的に調査把握し評価すべきである。
調査結果は全て公表すべきである。
また、評価書もそうであるが、公表期間を限定せずに常時公表すべきである。
(5)事後評価の留意点
事後評価は、供用後の環境負荷を把握できる時期に行うことが必要である。環境負荷の小さい時期や気象条件(大気汚染の影響の出にくい季節や気象条件、道路であれば交通量の少ない夜間や休日、水質汚濁関係ではその影響の出にくい大雨の後など)、自然環境・生態系影響を把握しにくい時期に行ってはならない。
(6)工事中の異変について
事後評価の一部ととらえるものであるが、工事中に、環境影響評価書に記載のない環境負荷・異変が明らかになった場合はただちに原因を調査すべきである。異変があればただちに工事を止めるしくみとすることが求められる。異変がおきているかの判断は事業者にさせずに環境大臣など第三者が行うことが必要だ。主務大臣は、主務大臣自身が事業者になることがあるのでふさわしくない。
3. 幅広い知見の収集・活用
(1)科学的知見をできるだけ広く集める制度に
・「想定外」をつくらない影響知見収集
環境影響評価では、「想定外」といって様々な知見を切り捨てることなく、事前の時点で可能な最良の予測をすべきである。
影響自体について、科学者や住民の提案が項目調査を指摘するのみで極めて限定され、最新の知見に基づいた影響評価が保証されない。影響対象を狭くとりすぎたり、そもそも評価をしていない例もある。
(例)干潟の評価はほとんどなされず、また山の工事が海へ及ぼす影響、湾の奥の工事が湾全体に及ぼす影響等、水系全体への影響がきちんと行われていない例もある。
今後、「想定外」として、環境影響の予測の知見を切り捨てるようなことを許さない制度に変えていく必要がある。多くの知見を集めるため、意見で影響が指摘されれば、調査項目の追加が出れば、原則として取り入れ、必要ないなら、「ない」という側に立証責任を課すことにすべきである。
・過去の評価の知見を活かす制度に
準備書、方法書等の公開をホームページでせず、公告縦覧期間も短く、また期間がすぎると引き上げてしまう、「著作権が事業者にある」などとして過去の知見を共有して議論するのにブレーキをかける、などなど、広く知見を集めて議論するのとはほど遠い制度、運用にある。
公表については考え方を抜本的に転換し、広く公開し、多くの人が情報を共有する制度に変えるべきである。
(2)他の環境負荷発生源との関係、影響範囲を広くとらえる制度に
大気汚染など地域の環境負荷低減には、複数の発生源をあわせた評価、新規事業を行う場合でも他との連関をとらえて評価し、負荷低減・最小化を図ることが必要である。ところが、環境基準超過地域で工事がなされる場合に単に影響が軽微として、他との相互関係(例えば交通量がどう影響しあうのか)どころか、そもそも他の負荷を余り考慮しないような、複合影響の評価以前の運用がなされている。影響地域を限定し、定量的評価もなく単に影響が小さいとして、科学者の検証も受けずに対象から外すのも問題である。
複数の汚染源・相互連関を面的に総合評価し、また負荷が発生しうる広い範囲の影響評価を保証するしくみが必要である。
少なくとも、方法書や準備書への意見で科学者や住民が求めた時には必ず評価をし、また科学者や住民が調査資料を出した際には基本的にとりいれるような制度にすべきである。
(3)緊急措置については限定すること
環境影響評価を緊急に適用除外にする場合について、電力逼迫時のガスタービンやディーゼル発電機設置などで特例措置がなされた。
こういう場合のルールにつき、災害対策で短期間に運転開始するものに限ること、石炭火力発電所や原子力発電所のように環境負荷が甚大であるものは対象としないこと、などを基本的事項で定めるべきである。
4.
その他について
(1)主務省令の的確性の検討
従来は基本的事項の後、主務省令が出される一方通行の定め方であった。今後は、各省庁の主務省令が「想定外」容認放置の余地を残していないか検証し、余地があれば改正させるようなフィードバックが求められる。
(2)評価後に完成しない工事
影響評価を行った際に、緻密で万全の評価をしたとしても、工事が長引き、年月がすぎれば事業の形態や前提が変わったり、環境影響の重心が変化することがある。
事業の変化、状況の変化に応じた評価見直しを、環境影響評価制度の中でも保証するしくみが求められる。具体的には3年たてば影響評価を自動的に無効として新たにやりなおすことなどが求められる。これは基本的事項に書き込めるはずである。
(3)問題が生じれば工事を中止して対策、対応を協議
工事の途中で、事前評価で予想できなかった影響が発生すれば、いったん工事を止め、科学者や住民が知恵を出し合い、対策や対応を協議するしくみとすべき。
問題の発生は、事業者が自主的に申し出る場合の他、自治体、科学者や住民が発見した場合には環境大臣に通報し、ただちに環境大臣が中止措置命令を出すしくみが求められる。
(4)不服申し立て制度
手続きに問題がある、あるいは評価に問題がある場合には、アセス手続き自体について、まず不服申立の手続きを定める必要がある。これを審査する機関は事業官庁の任命する委員からなる組織ではなく、科学者や住民からの独立組織やオンブズマンが望ましい。不服申立がなされている間は、工事を中止することが不可欠だ。
次に、不服申立でも解決しない場合の訴訟手続きを定める必要がある。対象は行政処分だけでなくアセス手続全般とすべき。また、原告適格を、事業者が任意に設定した「影響範囲」の住民に限るのは妥当でない。当該影響範囲自体が争いの対象になることを考慮し、全国民とするとともに、その分野での知見を有する学術団体やNGOなどの団体についても原告適格を認めるべきである。
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